山本幸三内閣府特命担当大臣の発言について

私ども日本陸水学会には団体会員として直接所属している博物館、あるいは学芸員が会員として所属している博物館が12施設あります。博物館は国や地域の歴史的、文化的、科学的に重要・貴重な資料の収集、保管、整理、展示、調査研究、教育・啓発活動を行い、これらを通じて国や地域の歴史や文化の継承を担うとともに、国民による知的財産の利活用の拠点となっています。この意味で博物館は、大学に比肩する高等教育・研究機関とも言えます。日本国民の知識・教養レベルは国際的にみても高い水準にあり、これは我が国がこれまでにさまざまな社会的課題を克服してきた一因となっています。その実現のために博物館が果たしてきた役割は、高く評価されるべきでしょう。

博物館の学術・文化的レベルの維持発展と管理運営において重要な役割を果たしているメンバーは、学芸員です。我が国の博物館は国際的に高い評価を受けていますが、それは学芸員の学究心と社会奉仕精神に負うものです。学芸員の日々たゆまぬ努力無くしては、我々が関わっている陸水学に関する貴重な資料の保管・利用や、それに根差した今日の陸水学の発展もあり得ず、我が国の将来を担う若者の教育啓発も見込めません。多くの学芸員は博物館が社会に果たす役割について多角的な視野を持って検討を重ね、社会的情勢の変化を取り入れつつ、喫緊の課題、例えば生物多様性地域戦略の策定などにも貢献してきました。

2017年4月16日、山本幸三内閣府特命担当大臣(地方創生、規制改革)は滋賀県大津市で開催された地方創生セミナーにおいて、学芸員に対する思慮を欠いた発言をされました。我々はこのことを大変遺憾に思うとともに、この発言の意識の根底にある学芸員の役割の重要性に対する認識不足に驚きを禁じ得ません。あわせて、今回の発言の根底にある「地方創生とは稼ぐこと」という基本的な考え方そのものが極めて偏っていると考えます。当学会が学問的対象としている、地方それぞれに固有である陸水環境やそこに住まう生物の保全も、経済性には直接つながりません。しかしながら、少し長い視点から見れば、かけがえのない豊かさを生むものです。

今回の発言を受け、日本陸水学会は博物館が担う先述の重要な責務について、我々が日々行っている陸水学の研究とあわせて、その意義を広く普及啓発して行く所存であることを表明いたします。

2017年4月24日
日本陸水学会
会長 山室真澄